予言者のイヤミ

ついにWHOが「パンデミック」を宣言したことで、世界的な混乱が加速しています。
こういう時は「デマ」を拡散させようとする人達が「雨後の竹の子」のようにたくさん湧いてきますが、案の定、「ノストラダムスが今回のパンデミックを予言していた」なんて話がネット上に飛び交っております。
それがこれ。

海辺の都市の疫病は
死が復讐されることでしか止まらないだろう
罪なくして咎められた公正な血を代償に
偉大な婦人は偽りによって辱められる

これはノストラダムスが存命中に出版した予言集「百詩篇」の第2巻の53番です。
う~ん、確かに「パンデミック」を示唆しているように見えますが、ノストラダムスの死後に流行した感染症は、主なものだけでもハンセン病、マラリア、結核、コレラ、チフス、破傷風、梅毒、赤痢、天然痘・・・など無数にあります。「疫病」という表記だけでは、何を指しているかはさっぱり分かりません。

しかも、ネット上の文書には「疫病」と書いてありますが、実はオリジナルのフランス語版予言集でははっきりと「ペスト」と表記してありますよ。
意図的に「ペスト」の部分を「疫病」と書き換えて、世間の不安感を煽っているんですから、これをやっている人達は結構悪質ですね。

そもそも最初にコロナウイルスの患者が発見された武漢は「海辺の都市」ではありませんし、「偉大な婦人」も誰のことを指しているかが分かりません。どう考えても、これは今回の「コロナパニック」を暗示しているものではないですよ。

ノストラダムスの予言を正しく読み解くためには、彼が「どんな人物だったのか?」をまず知らなければなりません。
彼はフランス王妃カトリーヌ・ド・メディシスに仕えた医者兼占星術師であり、予言詩もフランス語で一般庶民向けに出版されています。要するに、彼の予言詩のほとんどは「当時のフランス人のために書かれている」ということなんですね。

順を追って説明しましょう。

ノストラダムスの本名は「ミシェル・ド・ノートルダム」です。
ミシェルは「大天使ミカエル」のことですし、ノートルダムとは「聖母」を意味するフランス語です。「ノートルダム寺院」が有名ですね。
つまり、名前を見ただけでも、彼が非常に敬虔なカトリック教徒の家に生まれたことが分かるのです。「ノストラダムス」というのは、ノートルダムのラテン語読みで、彼はペンネームのようにしてこの名前を使っていました。単純に「その読み方の方がカッコイイから」なんだそうです(笑)。

ノストラダムスは有名な医科大学を卒業していますが、当時の医学部で「占星学」は必須科目でした。検査機器のない時代において、「星の配置から患者を病気を診断する」というのは、ごく一般的に行われていたんですね。これを「占星医学」と言います。
だから、彼に限らず、当時の医者の中には「占星術師」を兼任している人がとても多かったのです。

ノストラダムスは30歳の時に最初の結婚をし、二人の子供をもうけますが、仕事で留守にしている間に妻子全員が「ペストに感染して死亡する」という悲劇に見舞われています。
挙句の果てには、妻の父親から「損害賠償請求」の訴訟まで起こされましたから、本当に最悪の立場に追い込まれてしまったのです。
大きなショックを受けたノストラダムスは、その後10年以上もフランス中を放浪し、ペスト患者の治療をして回ります。この「妻子の死」が彼の活動に大きな影響を与えていることは間違いありません。

命がけのペスト治療で大きな功績を挙げ、それなりの財産を築いたノストラダムスは48歳の時に再婚し、そこから6人の子供をもうけています。平均寿命が短い時代において「48歳を過ぎてから6人の子供を持つ」というのは、相当大変なことだったでしょうね。しかし、子供たちにはかなり慕われていたようで、ノストラダムスの有名な「肖像画」も、実は息子の一人が描いたものだと言われています。
ノストラダムスの人生はここからすべて「妻と子供を守るため」に捧げられます。

時は「旧教カトリック」と「新教プロテスタント」が大きく対立していた血なまぐさい時代です。

「異端審問官」と呼ばれるカトリック側の聖職者が市内を歩き回り、ちょっとでも怪しい素振りを見せれば「異教徒」として逮捕され、処刑されることさえある時代だったのです。
ノストラダムスのように占星術(魔術)を使う人間は、「異端者」としていつ告発されても不思議ではない状況だったのですね。

ノストラダムスは敬虔なカトリックだったのですが、異端審問官に目をつけられれば、家族ともども処罰される恐れがありました。
カトリック教会の疑惑の目から逃れ、家族を確実に守るためには「強力な後ろ盾」が必要だったんです。

そこでノストラダムスが目をつけたのが「占い好き」で知られるフランス王妃「カトリーヌ・ド・メディシス」でした。
カトリーヌは普段から王宮に大勢の占い師を呼びつけていましたが、「厳しい助言」をする占い師はすべて首にしていたと言われています。いるよね~、そういう人(笑)。要するに「いい事だけしか聞きたくない」というワガママ王妃だったんです。

予想通り、カトリーヌは巷で評判の占星術師だったノストラダムスを王宮に召喚します。ノストラダムスは自分自身と家族を守るため、カトリーヌに「バラ色の未来」だけを告げることを決意しました。

カトリーヌに「これから、あなたの3人の息子が王位を継ぐことになる」と伝え、実際に3人の息子たちは後にフランソワ二世、シャルル九世、アンリ三世として即位を果たします。要するに、上の兄たちが「短命」だったから次々順番が回ってくるだけなのですが、カトリーヌはそこまで頭が回らなかったのか、ノストラダムスの予言を大いに気に入り、専属の占星術師として王宮に召し抱えたのです。
ノストラダムスはこの王子達にも、相当慕われていたようです。こういう経緯を見る限り、ノストラダムスは決して「気難しい老人」ではなく、かなりフレンドリーな家庭人であり、良き教師だったことがうかがえますね。

ノストラダムスは「家族を守るため」に、王妃に対しては一貫して「明るい未来」しか告げませんでした。でも、その偽りの生活で相当ストレスが溜まったのか、同時期に一般向けに出版した「予言詩集」の中では悲劇的な未来ばかりが描かれていたのです。

実は「予言詩」と言っても、未来のことばかり書いているわけではなく、過去の歴史的な出来事の「検証」と思われるものもいくつか含まれています。

冒頭の「疫病」は、そのまま「ペストの蔓延」のことを意味しているのですが、4行目の「偉大な婦人は偽りによって辱められる」とは、恐らく「ジャンヌ・ダルク」を指しているのではないか、と推測できます。

ジャンヌ・ダルクはノストラダムスよりも前の時代の人物ですが、フランス人にとっては歴史上の「スーパーヒロイン」です。要するに、ノストラダムスにとっては聖母マリアに次ぐ「偉大な婦人」なんですね。
ジャンヌは軍勢を率いてフランスをイギリス支配から解放したにもかかわらず、フランス王に裏切られ、「魔女」の汚名を着せられ、イギリス人によって「火あぶりの刑」に処せられたことはご存知の通り。

ノストラダムスは予言詩の中で、この時代にペストが蔓延したのは「ジャンヌ・ダルクのような聖女に無実の罪を着せて処刑したから、天の怒りでこのような感染症が起きたのではないか?」とフランス王家を揶揄しているのですね。

ジャンヌ・ダルクをイギリスに売り渡したのは、当時のフランス王シャルル七世です。
ノストラダムスは王宮でこき使われているストレスを、予言詩の中に「フランス王家に対するイヤミ」を入れることで発散していたのかもしれません(笑)。

このように「予言」というのは、その時代背景、その人物の人柄、その人物が持っていた占星術の知識などを総合的に知らなければ、決して読み解けるものではありません。安易にコロナウイルスとノストラダムスを結びつけて「不安感を煽る」のは愚かな行為です。

こんな状況ですが、常に「冷静さ」を心掛け、決して「怪しげな人物」の言葉に耳を傾けないよう注意して生活してくださいね。


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